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忘れられない出来事  NO 3287

 過日に担当した講演、会場に懐かしい二人の女性の姿があった。一人は司会者の世界で知られる人物で、双子の姉妹「きんさん」の葬儀の司会を担当していた。

 彼女に無理を頼んだことがあった。九州で講演を終えて山陽道を大阪へ向かっていると自動車電話が鳴った。当時は運転中の通話も問題なかったが、インカムみたいなシステムをセッティングしていたので便利だった。

 電話の相手は同級生だった人物。上場会社の社長をしていた彼のお母様のご訃報だった。

 遠方のお寺を式場として進め、お通夜の司会は私が担当したが、葬儀当日にはプライベートなことが重なっており、どうしてこんな皮肉なことがと悩んでおり、それを察した彼
から質問があり、そこで上賀茂神社で行われる娘の結婚式と重なっていると伝えたら、彼は結婚式に行くべきと言ってくれ、代行司会者として彼女に依頼することになった。

 故人は相撲界に関連されていた歴史があり、大相撲の関係者が多く参列される葬儀となったが、情報提供を彼女に伝えて京都に向かうことが出来たことに、彼と彼女に心から感謝していた。

 さて、もう一人の女性だが、彼女には大変な目に遭わされたので忘れられない。九州から明日の密葬義の司会をと依頼があったのは午後2時頃のこと。密葬と言っても弔問者が800名と予想されるような規模。故人は誰もが知る企業の創業者であった。

 お客様のご満足を考えると私と弊社の女性司会者の二人では大変。ディレクションをやってくれるスタッフのキャスティングが重要となり、当時に東京に在住していた彼女と友人の男性に頼み、東京駅で「のぞみ」が発車したら電話をと要請しておいた。

 やがて連絡があり、その「のぞみ」に新大阪で合流するために向かい、知らされた号車のすぐ近くの席を手配、車内で会ってそのまま目的地に向かって同行した。

 その日の夜に現地に到着、駅の近くのホテルに宿泊。次の日に朝食を早めに済ませて在来線の特急列車で式場の最寄り駅に行った。

 そして式場について打ち合わせを済ませ、いよいよ本番という時間を迎えた。ふと目に入ったのが彼女の行動。喪主様と何か打ち合わせをしているような様子。しばらくして私の方へ戻って来たが、何かあったな?というのは表情からも感じられたのだが、彼女はそのことについて何も触れなかった。

 これが本当に密葬義というぐらいご多数の参列者。予定通りにシナリオを進め、ご出棺の時を迎えた。

 喪主様がご位牌を手に霊柩車の助手席におられる。窓ガラスが下がり、中から喪主様が彼女を呼ばれている。時間にして1分ほどだったが、何か事情があったことが拝察出来た。

 司会台を片付けていると会社の役員さん達が及びという連絡があった。控室に参上すると社葬本葬儀の式場と日程が決められ、プロデュースと司会のご指名を頂戴した。

 片付けを終えてから彼女に喪主様との会話について尋ねてみたら、彼女は含み笑いの表所で言葉を濁し、ただ「新幹線の中で」とだけ返して来た。

 そして、新幹線の中で教えられた事実に驚愕。開式前の行動は私が指示していなかった彼女単独の大問題となること。開式前に行う「奉儀」について説明してしまい、喪主様から割愛して欲しいと言われたそうだ。

 そんなことを全く聞かされていなかったので本番で「奉儀」のひとときを進めたが、ご出棺時に喪主様から呼ばれていた会話は、「あれは素晴らしかった。有り難う」というものだった。

 これでクレームに発展していたら社葬本葬儀のご依頼はなかっただろう。「奉儀」というのは私が発案したオリジナルバージョンだが、専用の音楽CDまで制作しており、すべてのお客様にご賛同のお言葉を頂戴した歴史がある。そこには私だけの言葉の世界もあり、それはご体感されなければご理解されることはなく、突然に行うからこそ意味があり、それを本番の始まる前の短い時間で喪主様に説明申し上げることは不可能なこと。それを単純発想な親切心で行動してしまったのが彼女のミス。そこで意外なお言葉が出て来たので「しまった!」と後悔したみたいだが、頭が真っ白になって私に伝えなかったのがWミスだが、知らずに決行して結果として喜ばれたのだから安堵した秘話である。

 そうそう、司会台を片付けている時、携帯電話が鳴り「ぎんさんがご逝去されました」という連絡を受けたが、そこにも不思議なご仏縁があり、これについてはまた改めてということに。